月に黒猫 朱雀の華
幕間・七 レン
部屋に戻ってから色々と考え込んだり、本を開いたりしていた嘉神慎之介がベッドに横になったのは、月が天頂にかかり、そこから少し傾いてからだった。
さほど時間を掛けず、嘉神は眠りに落ちていく。
「…………」
嘉神が連れてきたときから同じベッドの上で丸くなっていた黒猫が顔を上げた。
起き上がり、嘉神の顔の傍へと静かに歩み寄る。
さり、と嘉神の頬を舐める。
「ん……」
眉を寄せて嘉神は顔を背ける。が、起きたわけでもなく、不快そうでもない。口の端には微かに笑みが浮かんでいる。
「…………」
と、嘉神の寝顔を見つめていた黒猫の姿が、淡い光に包まれた。
猫の姿は光の中で崩れ大きく広がったかと思うと、瞬く間に少女の姿を形取っていく。
やがて光が消えた後には、黒猫の代わりにレンの姿があった。
――…………
レンはぺたりとベッドに座り込んで嘉神を見つめた。
嘉神は黒猫がレンに変わったのにも気づかず、静かに眠り続けている。
レンはゆっくりと、眠る嘉神に顔を寄せた。長い青銀の髪がさらりと流れ、その顔を隠す。
ややあって、小さな少女の声が、夜の空気を震わせた。
「慎之介……早く……思い出して……」
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