月に黒猫 朱雀の華
四の四 再会
道の先には一軒の家があった。かやぶき屋根の、こじんまりとした家だ。家の庭には池があり、亀が泳いだり石の上でひなたぼっこしている。
「……四神の一人、玄武の家だ」
レンを下ろして嘉神は説明する。
「さて……いるといいのだが……」
嘉神がそう呟くのと同時に、家の戸が開いた。
「おや」
中から姿を現した、白いひげをたっぷりとたくわえ、笠をかぶった老人が驚きの声を洩らす。
この老人こそ、四神の一人であり、嘉神の剣術の師でもある玄武の翁であった。
翁はそのまま嘉神の方に歩み寄り、笠の端を軽く上げて嘉神を見上げた。
「おやおや、まさかと思うたが。久しい顔よのう」
「……互いにな」
「嬢ちゃんも久しぶりじゃのう」
翁は目を細くしてレンにも声を掛けた。
「知り合いなのか?」
「うむ、お主を見つけたときに出会ったのじゃよ。
まあここで立ち話もなんじゃ、中へ入ろう。話しておる内に皆も戻ってこよう」
「皆?」
「戻ってくればわかる」
家へと向かいながら翁は言う。その後をちりりと鈴の音をさせてレンがついていく。
嘉神の腕を引っ張って。
「…………」
もとより話をするために嘉神もここへ来たのだ。レンに逆らわず嘉神も翁の後を追った。
翁の家の囲炉裏の間に嘉神とレンは通された。
円座にあぐらをかいた嘉神の足の間に、ちょこんとレンは座っている。
「………………」
「…………」
何か言いたい気分の嘉神ではあったが、さも当たり前のようなレンの様子に、結局何も言えないでいた。
「仲の良いことじゃのう」
茶を出しながら、ほっほと翁は笑った。
「…………」
「お主を見つけたときも、嬢ちゃんは寄り添っておったのう」
憮然とした嘉神に、自分も円座に腰を下ろして翁は言う。
「それは今はいい。私が何故来たのかぐらい、わかっているのだろう」
「地獄門、であろう?」
「わかっているなら、その話をするべきだ」
「慌てるでない。
それは皆が帰ってからの方がよかろうよ。もうじきに帰ってくるじゃろうからの……おおそうじゃ、茶菓子があったんじゃった」
ぽんと手を打って翁は立ち上がる。同時にレンの背筋がぴんと伸びた、ような気が嘉神はした。
「これじゃこれじゃ、扇奈殿がこの間持ってきてくれたクッキーなのじゃがな」
菓子皿にクッキーを盛ってきた翁が口にした名に、嘉神は眉を寄せる。
「……扇奈? まさか、京堂扇奈か?」
「おお、そういえば会っておったのじゃなぁ」
白いひげをしごく翁の声に、白々しい響きがあったのは嘉神の気のせいではあるまい。
「……よもや「皆」の中には京堂扇奈がいるのではあるまいな」
「当たりです♪」
「…………!」
覚えのある声に嘉神は目を向ける。
戸口から入ったところに、長い黒髪の少女がいた。
そしてその隣には。
「……貴様……」
「嘉神……!」
若き青龍、楓の姿があった。
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